工場のスマート化で何を目指す?導入前に検討すべき7つのポイント
近年、IoTや産業用ロボットを導入した「スマート工場」、または「スマートファクトリー」という言葉を耳にすることが増えているのではないでしょうか?遠隔操作による作業効率の向上、現場から離れた場所でも状況やデータの確認や計測が可能になるなど、工場のスマート化によって企業は大きなメリットを得ることができます。
しかし、具体的にどのようなことが期待できるのでしょうか?今回は、IoTや産業用ロボットを導入する前に知っておくべき7つのポイントについてご紹介していきます。
工場のスマート化を図る7つのポイントとは?
近年、IoT・人工知能・ロボットなどを利用した第4次産業革命が進展していることによって、スマートファクトリーへの取り組みを行う企業が増えています。しかし、企業や職種によっては導入から実行までスマート化を上手く進めることができないといった課題も挙がっています。
これらの課題を解決するために、経済産業省が企業へ向けてスマート化の主な目的とポイントを挙げています。
- 品質の向上
- コストの削減
- 生産性向上
- 製品化・量産化期間の短縮
- 人材不足・教育への対応
- 新たな付加価値の提供・提供価値の向上
- その他
この項目はスマート化における7つの目的であり、得られる大きなメリットでもあります。これは、スマート化を進めるためにとても重要な項目で、導入する企業の戦略立案に活用できるように経済産業省が目的別にポイントを整理した「スマートファクトリーロードマップ」です。また、ロードマップではそれぞれの目的に対して、より細かい目的(小目的)が整理されています。
工場のスマート化を始める前に目的を明確にし、得られるメリット把握しておくことが重要です。
品質の向上
不良品の低減
不良品の低減では、人員による作業手順や結果などをセンシングすることでミスを削減するのはもちろん、過去に起きたミスを分析することでどのような工程で発生するのかを特定します。そして、その結果に基づいて設計の変更・人員の育成を行います。
品質の安定化・ばらつきの低減
品質の安定化・ばらつきの低減では、設備にセンサを搭載してデータを収集しモニタリングします。収集したデータを分析し、ばらつき要因の特定や加工改善モデルを用いて加工性能の最大化を行います。
人員の作業状況をセンシングしデータ化・分析することで、作業のばらつきの要因を特定します。そこで構築した作業改善モデルを用いることで、作業中に発生する人員によるばらつきを最小化できます。
設計品質の向上
品質の向上では製品にセンサや通信機器を搭載し、使用状況や環境などのデータ収集を行います。収取したデータを基に品質や信頼性向上などに繋がる情報を分析し、その結果に基づいて設計仕様や生産方法の修正・改善を行います。
コストの削減を目的にする場合
材料使用量の削減
材料使用量の削減では、過去の設計データを収集・蓄積し、専用の解析・シミュレーションソフトウェアを使用して構造解析を行います。そして、過去の事例や解析結果から使用する材料の削減や軽量化に繋がる形状・構造などのモデル化を行い、新たに構築した設計改善モデルを用いて材料使用料の最小化を行います。
生産のためのリソーセスの削減
生産のためのリソーセスの削減では、製造実行システムのデータを利用して、作業員・使用する材料・投入するエネルギーなどの最小化を行います。
在庫の削減
在庫の削減では、製造実行システムのデータを利用して受注・生産・出荷など、これらの計画や実績の分析を行い需給変動の要因特定や予測を行います。
予測した需給データに基づいて在庫が最小化できる様に、調達資材・生産計画・出荷計画の最適化を行います。
設備管理・状況把握の省力化
設備管理・状況把握の省力化では、設備にセンサを搭載してモニタリングを行い、現場から離れた場所でも稼働状況の確認やデータ収集が行えます。さらに、センサを使用設備に搭載することで、トラブルが発生した際に効率よく人員へと通知できるため、監視や点検といった管理業務を最小化することが可能になります。
生産性向上を目的にする場合
設備・人員の稼働率の改善を目的にする場合
設備・人員の稼働率の向上では、製造実行システムを利用することで現場全体の稼働状況や人員による作業の進捗状況を把握することができます。
把握した状況を基に各作業完了時間を予測できるため、設備や人員の非稼働時間の発生要因の分析ができます。これにより設備の稼働計画や人員の作業計画を見直し、非稼働時間の最小化が可能となり、稼働率の向上を実現できます。
作業の効率化
作業の効率化では、HMIやRFIDなどを活用し、管理情報・生産情報・設備の稼働情報などのデータ入力や確認が可能になります。
それぞれの情報から稼働状況に応じて活用するシステムに必要となる情報の予測ができるため、作業プロセスの最適化が期待できます。
設備故障に伴う稼働停止の削減
設備故障に伴う稼働停止の削減では、センサや無線通信機器を利用することで設備の稼働状況の確認やデータ収集を行い、故障に繋がる予兆や条件を調査し、故障発生の時期を予測できます。さらに、設備の異常や故障原因を人工知能に学習・分析させることで、故障頻度を最小化できます。また、故障原因の究明を自動化すれば、故障時の復旧を早めることも可能になります。
製品化・量産化期間の短縮を目的にする場合
製品開発・設計の自動化
製品開発・設計の自動化では、専用のソフトウェアを利用して過去の設計事例や構造などを解析できるので、今後の設計仕様・生産しやすい形状・構造などをモデル化することができます。
構築した設計改善モデルを用いて製品設計を自動化すれば、製品の開発や設計期間の短縮が期待できます。
仕様変更への対応の迅速化
仕様変更への対応の迅速化では、設計部品表(E-BOM)や製造部品表(M-BOM)を利用することで、部品の詳細情報を簡単に確認できるだけでなく、開発設計や生産データを一元化することができます。そして、E-BOMやM-BOMと開発・設計・生産工程のデータを連携させることで、仕様変更時の対応時間を最小化できます。
生産ラインの設計・構築の短縮化
生産ラインの設計・構築の短縮化では、生産ラインシミュレーターを利用することで、サイバー上で生産ラインの設計が可能になります。また、生産能力や作業工程、投資コストなどの評価・検証が可能になるので、サイバー上で生産ラインの設計を最適化した後に実際の生産現場へと実装することで、構築期間の短縮が期待できます。
人材不足・教育への対応を目的にする場合
多彩な人材の活用
多彩な人材の活用では、人員の熟練度・知識・身体能力・使用言語などをデータとして収集することで、各人員の特性情報の利用が可能になります。そして、HMDや音声認識機器などのツールやデバイスを活用することで能力拡大が期待でき、特製が異なる人材を有効に活用できるようになります。
技能の継承
技能の継承では、熟練者の技能をセンシングしてデータベースへと蓄積し、収集したデータの分析結果から熟練者の優れている部分を明確にします。これにより、技能・ノウハウ・知識を体系化でき、それらの情報を共有することで人員の能力向上が期待できます。また、それらの情報をロボットに学習させれば、人員不足の問題も解消することができます。
新たな付加価値の提供・提供価値の向上を目的にする場合
多彩なニーズへの対応力の向上
多彩なニーズへの対応力の向上では、各製品の共通部分の定義を行い、製品の構造・設計・生産プロセス・加工基準を共通化させます。そして、共通モジュールと個別モジュールを組み合わせることで柔軟性のある生産体制の構築が可能となります。また、社内の関係部門間でデータを連携すれば、部品の調達計画・生産計画・物流計画などの情報共有が可能になり、設備や作業指示などの計画策定の自動化や最適化を行えます。これにより、ニーズに合わせた多品種製品の生産・提供が可能になると言われています。
提供可能な加工技術の拡大
提供可能な加工技術の拡大では、生産管理システムを利用することで現場の進捗状況の把握やデータ収集が可能になるため、企業間でデータの連携を行えば情報共有が可能になります。
各企業での加工時間・生産計画・物流計画などを最適化することで、さまざまな加工技術を提供できることが期待されています。
新たな製品・サービスの提供
新たな製品・サービスの提供では、製品にセンサを搭載して使用状況や環境データの収集を行い、ユーザーの求める製品・機能・サービスなどを先回りした企画・提案が可能になります。さらに、収集したデータから新しいサービスやアフターサービスなども提供できると言われています。
製品の性能・機能の向上
製品の性能・機能の向上では、製品に搭載したセンサや通信機能からさまざまなデータを収集し、分析することでユーザーの使用方法や傾向を把握することができ、そのデータを基に製品のカスタマイズや性能の最大化を行うことができます。さらに、ソフトウェアを遠隔でアップデートすることで、最新機能を効率よく製品へと追加することも可能です。
その他の目的
リスク管理の強化
リスク管理の強化では、製品に通信機器やRFIDなどを搭載することでさまざまなデータを収集し、製品個体毎の品質を把握できます。また、製品に蓄積されたデータを分析することで、不具合が起きた際の原因特定を早め、早急に対策をすることで不具合の影響範囲の最小化も期待できます。
スマート化の促進は工場の競争力が上がる
IoTやロボットを活用する工場のスマート化は、生産性や人員不足の解消、効率化の向上といったメリットがあります。そのため、成功すれば徐々に規模を拡大していくことができるので、競争力の向上が期待できると言えるでしょう。
しかし、導入したからと言って実現できるプロジェクトではありません。スマートファクトリーロードマップで7つの目的を挙げ、それぞれの目的を達成することで1スマート化の実現を目指してみましょう。